最高裁判所第二小法廷 昭和63年(行ツ)103号 判決 1988年10月21日
青森市新町一丁目九番二六号
上告人
有限会社武田開発商社
右代表者代表取締役
武田政治
右訴訟代理人弁護士
尾崎陞
清宮國義
青森市本町一丁目六番五号
被上告人
青森税務署長
大場輝夫
右指定代理人
植田和男
右当事者間の仙台高等裁判所昭和六二年(行コ)第九号青色申告承認取消処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六三年三月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人尾崎陞、同清宮國義の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)
(昭和六三年(行ツ)第一〇三号 上告人 有限会社武田開発商社)
上告代理人尾崎陞、同清宮國義の上告理由
第一点 原判決には、青色申告制度の趣旨を理解せず、ひいては、法人税法第一二七条第一項四号の解釈適用を誤つた違法があるので破毀すべきである。
一、確定申告は、当該事業年度の課税標準である所得の金額または欠損金額を明確にし、納税額が適正であるようにするためなされるものである。
そして青色申告の承認は、申告が所得の内容について備え付けの帳簿により正確になされる場合になされるものである。したがつて、備え付けの帳簿によつて所得の内容を検討する必要がないような場合には、確定申告が所定の期限に提出しなかつたとしても法人税法第一二七条第一項を適用して青色申告の承認を取消すことはできないものといわねばならない。
二、本件において、上告人が本件事業年度の確定申告書を提出しなかつたのは次のような事由によるものである。
(一) 上告人は、昭和四八年一月五日訴外中野英喜(以下中野という)から中野所有の土地を代金五億九、一〇〇万円で買受ける契約を締結し、同日手付金として金五、〇六〇万円を支払い、売買代金のうち金一、〇〇〇万円を同年同月二六日、うち金三億円を同年三月一五日それぞれ支払つたが、中野に債務不履行があつたので、上告人は昭和四九年八月二八日売買契約を解除し、同年一〇月七日上記支払済の手付金および売買代金三億六、〇六〇万円並びに債務不履行による損害金一億二、〇九〇万円および同年八月二九日以降の年六分の割合による金員の支払を求める訴を青森地方裁判所に提起した。
(二) 右訴訟の審理中、国(所管行政庁は仙台国税局長)は、昭和五一年三月三一日上告人にたいする昭和五〇年度法人税二億二、二二九万円の租税債権にもとづいて上告人の中野にたいする右訴訟の請求債権のうち金三億六、〇六〇万円の代金返還請求権を差押さえ、中野にたいし差押債権の支払を求めるため、昭和五三年四月二五日右訴訟に独立参加を申立てた。
(三) 青森地方裁判所は、右訴訟について、昭和五三年四月二五日国の請求を容認し、中野は国にたいし金三億六、〇六〇万円およびこれにたいする昭和五一年四月一日以降支払済まで年六分の割合による金員の支払を命ずる判決を言渡し、この部分について上告人の訴を却下した。
(四) 中野は、この判決にたいし控訴したが、控訴審である仙台高等裁判所において昭和五五年三月四日和解が成立し、差押にかかる代金返還金三億六、〇六〇万円およびこれにたいする昭和五一年四月一日以降の利息は中野から直接、国に支払われることになつた。
また、右和解により中野から上告人に支払わせることになつた和解金三、〇〇〇万円についても、青森県から差押えられ、原告は取立権を失つた。
(五) ところで、上告人は資本金二〇〇万円の宅地建物取引行などを営む会社であるが、その全資金を中野との前記土地売買代金の支払に投入し、これが中野の債務不履行により凍結したため営業活動を休止しなければならなくなり、社運のすべてを前記訴訟の進行にかけることになつた。
このことは上告人が被上告人に提出した昭和五一年度乃至昭和五六年度の確定申告書添付の決算報告書によつて被上告人において知悉していた。
そして、前記訴訟および和解には、被上告人の上司である仙台国税局長が訴訟の利害関係人または和解の当事者として関与し、中野が、前記和解によつて支払つた金員は、すべて国および青森県に受け入れられた。
なお、被上告人が昭和五七年六月三〇日付でなした昭和五四年度および昭和五五年度の法人税の更正処分については、仙台高等裁判所において繋争中である(同庁昭和六一年(行コ)第一一号事件)
(六) 上告人は、以上のような経過(この経過については争がない)で、昭和五一年度事業年度以降営業を休止し、同年度から昭和五六年度までの確定申告書はこれを提出したものの、これらの事業年度の決算は、甲第一号証の一乃至六によつて明らかなように昭和五二年度から昭和五六年度までは、営業損益は皆無で、営業外の損益も殆んどなく、企業会計によつて計算した損益の額と法人税法上の課税標準とについて調整を要するような状態ではなかつた。
(七) このことは、甲第一号証の七によれば、昭和五七年度の決算においても訴訟費用を除いては同様であり、被上告人は、昭和五九年九月、上告人の帳簿書類を調査し、上告人が昭和五七年度において営業活動をせず所得がなかつたことを知悉していたのであるのに、その後である昭和六〇年三月四日に至り本件処分をなしたものである。
このような場合、確定申告書を提出しなかつたとしても、正確な記帳に基づく誠実な申告がなされることを目的とする青色申告制度の趣旨を損うものではない。
三、ところが原審判決が引用している第一審判決の理由では、次のように判示されている。
法人税第七四条第一項、第一六〇条、第七五条、第七五条の二によれば、「青色申告書提出の承認を受けた内国法人は、所得の有無を問わず、また営業中であると休業中であるとを問わず、確定申告書の提出が義務づけられ、やむを得ない理由により決算が確定しないなどの事由がある場合にその提出期限の延長が認められるにすぎないのであり、原告主張の事由によつては、確定申告書の提出義務が免除されないことは明らかである。
なお、青色申告制度は、正確な記帳に基づき誠実な申告がなされることを制度の前提としているものであるから、誠実な申告がなされないことを青色申告の承認の取消しの要件とする同法一二七条の規定が合理性を有することはいうまでもない」とした。
しかし、これが同法第一二七条の解釈適用を誤つたものといわねばならない。
第二点 原判決には、審理不尽の違法があり、ひいては事実誤認があるので破毀さるべきである。
原判決は、上告人の事件処分をなすにつき著しく裁量権の範囲を逸脱し、あるいは裁量権を濫用したとの主張について、これを認めるに足る証拠はないとして排斥している。
しかし、第一点で述べた争のない本件の経過に加えて、甲第一号証の一乃至七の成立並びに昭和五七年度決算の税務調査等についての承認武田正行および高橋甫(昭和六三年二月一日付証拠の申出書参照)をすれば、右上告人の主張が明らかになつたのである。
ところが、これをしなかつた原審は審理を尽さず、ひいては、事実を誤認したものといわねばならない。
以上